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岡山地方裁判所 昭和24年(行)9号 判決

原告

高木莞一

外八名

被告

荒木茅一

外五名

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。

請求の趣旨

原告等代理人は(一)被告荒木茅一、岡本寬、脇本寬龜千、吉田杢治は都窪郡吉備町議会議員でないことを確認する。(二)被告吉備町長は右四名に対し町議会の招集をしてはならない。(三)昭和二十四年一月十七日被告吉備町議会において正副議長及び総務委員会委員、勧業委員会委員、敎育委員会委員、民生委員会委員、警察委員会委員の選挙は無効なることを確認する。(四)訴訟費用は被告等の負担とする。との判決を求めた。

事実

(一)  被告荒木、岡本、脇本、吉田の四名は原告等九名と共に岡山県都窪郡吉備町議会の議員であつたが昭和二十三年十月三十一日他の四名の議員と共に同議会議長高木莞一の許可を得て辞職した。

(二)  しかるに吉備町長難波貞一(昭和二十四年五月頃辞職した)はこれを無視し、同町議会の招集をしたので被告荒木、岡本等は同年十一月十五日書面をもつて同人等は辞職したからもはや議員ではないと通告した。

(三)  しかるところ被告荒木、岡本、脇本、吉田の四名は町長難波貞一の勧説により右辞職を翻意したとして、この四名を残留議員とし、残り十三名の議員の補欠選挙が行われ、昭和二十四年一月九日原告等九名は訴外人四名と共に吉備町議会議員に当選した。

(四)  次いで同月十七日町長難波貞一の招集により吉備町議会が開かれたが、その席に被告荒木、岡本、脇本、吉田の四名が列席したので、原告等は右四名は辞職して町議会議員でないと異議の申立をしたけれども、採用とならず、更に正副議長及び総務、勧業、敎育、民生、警察等各種委員の選挙をも敢行されたので、原告等はその投票の効力に関し異議を申し立てたがこれも却下すると議会は決定した。

そこで原告等は被告等に対し、それぞれ請求の趣旨、記載の如き判決を求めるため本訴に及んだ次第であると、陳述し、証拠として、甲第一ないし第十号証第十一号証の一ないし五、第十二号証(乙第四号証と同一)を提出し、乙第二号証の一ないし四第五号証及び第六号証は不知であるがその余の乙号各証の成立を認める、乙第一号証(甲第一号証と同一)は利益に援用すると述べた。

被告等は、原告等の請求はいずれもこれを棄却するとの判決を求め、その答弁として、原告等の主張事実中原、被告等が議長、高木莞一の許可を得て吉備町議会議員を辞職したこと、被告荒木、岡本等が辞職して、もはや議員ではないと同町長に書面で通告したことを否認し、その余はいずれも争わない。原告主張の議長、高木莞一の許可はなく、その後被告荒木、岡本、脇本、吉田の四名は一旦表示した町議会議員の辞意を町長難波貞一その他の勧説によつて撤回したので右被告等四名は依然として議員であり、決して議員の資格をうしなつてはいないから、右四名がもはや議員ではないことを前提とする原告等の本訴はいずれも失當として、棄却せらるべきである。と答え證據として乙第一号証第二号証の一ないし四第三号証の一、二第四ないし第七号証を提出し、証人西本淸人の証言を援用し、甲第二号証は不知なるも自余の甲号各証はすべてその成立を認める、と述べた。

理由

成立に爭のない甲第一号証(乙第一号証と同じ)に弁論の全趣旨をそう合すれば昭和二十三年十月三十一日(町議会閉会中)都窪郡吉備町議会の議員たりし原告九名及び被告四名(荒木、岡本、脇本、吉田)その他四名計十七名が連名でその議員辞任届を吉備町議会に宛て提出したことが推認できる。もつとも右甲号証の宛名欄にはなお町長名の記載もあるが右記載は後記認定の如く単に右届を町長の手を介して、議会に提出したための記入と解するを相当とするから、このことあるの故をもつて右認定の妨げとならない。

そこで本縣唯一の争点である右議員の辞職につき、議長高木莞一の許可の事実の有無について検討してみることにする。

前示甲第一号証にはその冒頭に議員高木莞一の署名がなされてあつて、昭和二十三年十月三十一日町議会閉会中右高木莞一(議長たる職にあつた)において議員辞職の許可を得ようとすれば地方自治法第百六条第百二十六条但書に従い、副議長(安井勝太郞)の許可を得べく同人に対して議員辞職届を提出すべき筋合であるに拘らず、このことなかりし事実は弁論の全趣旨に徴し明瞭であり、以上のような事実に成立に争のない乙第三號証の一、二第七号証、証人西本淸人の証言に弁論の全趣旨をそう合して考えると、前段認定の十七名の議員辞任届は町長難波貞一の手を介して年長議員、公森猪太郞に交附され、ついで同年十一月三日及び同月二十六日に開かれた同町議会に提出せられ、同議会において原告等議員辞職許可の議案として上提され、兩日の議会においてこれが許可を与えられた事実及び被告荒木茅一、岡本寬、脇本寬亀千、吉田杢治等四名の議員辞任届はその間町長難波貞一その他の慰留、勧説に基き同月十四日に至つて撤回せられ、右被告四名は依然同町議会議員たる地位を保有している事実を認めるに十分である。

右認定に反する甲第四ないし第六号証の記載は当裁判所はこれを信用することができないし、他に前記認定を覆えすに足る何等の証左もない。

果してそうだとすると、前記被告等四名が議長の許可を得て辞職し、吉備町議会議員でなくなつたことを前提とする原告等の本訴請求はすべてこの一点において理由なきものといわなければならない。

以上の説示によつて明白なように、原告等の被告等に対する本訴請求はいずれも理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島貢 裁判官 三關幸太郞 裁判官 菅納新太郞)

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